【fate槍弓】永遠にここで君を待つ15

タイトル:【fate槍弓】永遠にここで君を待つ15
内容:FGOで『槍ニキが来たら槍弓小説書きます』と呟いたら、次の日に槍ニキが来た記念に、真冬のホラー体験をプレゼント。
四・五次弓騎士が兄弟設定の上、兄馬鹿なギルが居ります。

つづきからお読みください。


◆◆◆

ギルガメッシュから連絡が来たのは、それから数週間経ってからだった。
エミヤの返事はOK。日時はクーに合わせるというので、バイトの無い日を伝えると、それでは数日後の夜にアーチャー邸に来るようにとメールが来た。
そうして待ちに待った日。
クーは自身でもおかしいと思うほどに緊張して、アーチャー邸の門前に立っていた。
レンガ造りの壮観な屋敷に見合った、巨大な鉄門の前で待つこと数分。
執事だと名乗る壮齢の男性に案内されて、クーは応接室に通された。
室内に入ると、そこには誰も居らず、気合の入っていたクーは出鼻を挫かれてしまった。
そうして1人残され待っていると、コンコンと扉がノックされ、エミヤが姿を現した。
黒のセーターに、濃い紅色のズボン。
休日だからだろうか、大学で見かけた時には後ろに撫でつけられていた前髪は降ろされ、顔には黒縁の眼鏡を掛けていた。
改めて見ると、エミヤがまだ高校生だと納得できる。
というか、顔立ちだけなら中学生でも通るのではないだろうか。
「お待たせてしまって、申し訳ありません」
そう言って謝ったエミヤは、手にした盆を机に置くと、そこからアップルパイが1ピース乗った皿をクーの前に差し出した。
そしてお盆に乗ったままの布を捲り、その下から取り出した白磁のポットから紅茶を注ぎ分けて、湯気の立つティーカップをアップルパイの横へ並べる。
「よろしかったら、どうぞ」
「応、ありがとうな」
クーは礼を述べて、さっそく紅茶を1口飲んだ。
口の中に広がる甘さと、鼻に抜ける芳醇な香りに、クーは思わず美味いと呟く。
「こんなに美味い紅茶は初めて飲むぜ」
「お世辞でもうれしいです」
「いやいや、世辞じゃねぇって。本気だぜ」
クーの素直な賛辞に、エミヤは涼しい顔をして受け流した。
褒められ慣れているのかと思ったクーは、ふと目に入ったエミヤの両耳が赤く染まっていることに気がついた。
ああ、なんだこいつ照れているのか、と分かり、クーはこいつ妙に可愛いなと、男性に思うには妙な感想を抱いてしまう。
その考えを振り払うため、気を取り直して、アップルパイにも手を伸ばす。
これまた美味だった。
サックリとしてバターの香ばしい香りと小麦の味わいがするパイ生地に歯を立てると、シナモンの香りが鼻腔に広がる。
中に詰まっているリンゴの甘煮は甘さ控えめで、男性でも食べやすいように調整されていた。
「すげぇ美味い。なんだこれ」
「そ、そうですか。口にあったようで良かったです。気に入ったのなら
まだ残っているので、持って帰れるように後で包んでおきます」
素直に褒めると、エミヤは早口でそう捲し立てて、視線を右往左往させた。
その態度から、1つの可能性に思い当たる。
「これ、お前が作ったのか?」
ギルガメッシュが自慢するほどに料理上手だと言っていたのを思い出した。
菓子の類も作れるのだろうか。
そう思って聞くと、エミヤはこくりと頷いた。
「……確かに、これは自慢したくもなるわ。金ぴかの気持ちが理解できたぜ」
「喜んでもらえたようで、うれしいです」
そう言ったエミヤの顔には、微かではあるが笑みが浮かんでいた。
「エミヤ、別に敬語で話さなくて良いぜ?俺、そういうの気にしねぇし」
「でも、貴方は年上ですし」
「社会に出たら、年上の同期だっているし、4.5歳の差は誤差の範囲だろう」
「貴方は兄の友人ですし……」
「俺は、エミヤと友達になりたい。友達と、お前は敬語で話すのか?違うだろ?」
「う……、分かった。これで良いだろうか?」
「応とも」
ぐいぐい押してみたら、案外あっさり了承されてしまった。
見かけによらず押しに弱い質なのだろうか。
「ところで、私に用があると聞いたのだが」
「あ、そうだったな」
あまりにも美味いアップルパイと紅茶に、今日来た目的を忘れそうになっていた。
「回りくどいことは得意じゃないんで直球で聞くが、お前さん、『ランサー』って言葉に聞き覚えはあるか?」
クーの言葉に、エミヤは反応を返さない。
「確か、槍を持った兵士のことだな。それがどうかしたかね?」
「青い小鳥を見たことは?」
「それ位あるだろう。ああ、童話の『青い鳥』のことだったら、君の側にいると答えるが」
「ネクタイやマフラーが苦手らしいな。時計を身に着けていないのも、苦手だからか?」
「……」
「なあ、エミヤ。本当に知らないのか?」
「君は何が言いたいんだ。それらを私が知っていたら、君に何か関係があるのかね」
そう言ってエミヤは、クーを睨みつけた。
怒りの表情を浮かべているが、その目に浮かんでいるのは怯えだ。
「ランサー、青い小鳥、首に巻くもの。ここまで言っても、まだ気が付かないのか、エミヤ」
「……何をだね」
「廃れた屋敷。殺された家人。狂った当主。秘匿された儀式。開かれた黄泉の門」
クーが言葉を発する度に、エミヤの顔色は悪くなっていった。
「殺された恋人。縄の神子。……『衛宮士郎』」
「君は、なんで、それを」
「『ランサー』を『衛宮士郎』に届けたのは、俺だ」
そう告げて、クーはあの夏の日の事を語り始めた。
それは悲しい恋人たちの話。
でも最後は幸せになった2人の話でもあった。
長くとも短い、そんな話の最後に、クーはこう言った。
「『エミヤ』は俺に、自分を救ってくれたと言ったが、俺は『エミヤ』を救えなかったと思っている。俺はそれを後悔している」
クーの長い語りを、エミヤは1言も発せずに聞いていた。
その顔には先ほどまでの怯えは無く、ただ真剣に、聞き逃すまいと耳を傾けてくれた。
そしてクーが語り終わると、2人の間に沈黙が満ちた。
「……『衛宮士郎』は、ちゃんと君に救われている」
「俺はただ2人を見捨てて逃げただけだ」
「否、君は『エミヤシロウ』を、確かに救った」
そう言うと、エミヤはズボンのポケットからキーホルダーを取り出した。
そのキーホルダーから、何かを取り外し、クーの前に置く。
それは、見覚えのある赤い鈴だった。
「これは」
「『ランサー』が銜えていた、赤い鈴だ。本物だよ」
そう言われて、クーは赤い鈴を手に持ってみた。
「あ?これ、壊れてるのか?」
赤い鈴の中には玉が入っておらず、これでは肝心の音が鳴らない。
「君、知らなかったのか。その鈴は、元々、玉が入っていない。鳴らない鈴なのだよ」
「は?」
エミヤはそう言うと、クーの手から赤い鈴を受け取り、愛おしそうに見つめた。
「私が最近まで眠ったままだったというのは知っているか?」
「応、悪いとは思ったが、ギルガメッシュに聞いた。事故に巻き込まれたんだってな」
「そうだ。車に乗っている時に、突然全身が熱くなって、胸に激痛が走った。そして気が付いた時には、私はある屋敷を彷徨っていた」
「……屋敷?」
「私の体は、私の意思では動かない。勝手に動く体を、その中から眺めているだけだった。だが、時折、頭の中で声がしていた。それは悲鳴だったよ。悲しい、痛い、ごめんなさい、もう解放されたい。そう叫んでいた」
「まさか、それって」
エミヤの話に、クーには思い当たることがあった。
「あの時、私は半分死んでいたのだろう。魂というのか、意識体は『衛宮士郎』の中に閉じ込められていた」
「お前が起きなかったのは、体の中に魂がなかったからか」
「そうだろうな。そんな状態がどれほど続いたのか。私の意識は明確になったり朧気だったりと一定しなかったが、時折、屋敷の中で悲鳴が上がっていたのを覚えているよ」
衛宮邸は有名な幽霊屋敷で、興味本位で訪れた者が行方不明になっていたという新聞記事を思い出した。
そいつらも『衛宮士郎』の犠牲になったのだろう。
「徐々に私の意識が薄くなっていたある日、唐突に私の意識が明瞭になった。閉じていた目を開けると、目の前には青い髪の男性と、私と似た色合いの男性が寄り添って立っていた」
「『エミヤ』と『ランサー』か」
「ああ、そうだ。彼らは私に、謝っていた。同じ魂だったことで巻き込んでしまった、すまないとね」
「同じ魂?」
「気が付いていなかったのか?私と『衛宮士郎』は同じ魂を持っているぞ?」
「は、え、転生ってことか?」
「厳密には違うが、限りなく似た他人……。双子みたいなものだと考えてくれ。『衛宮士郎』の魂は今でも『ランサー』と一緒に、あの場所にいるからな」
魂の双子。いきなり知らされた事柄に、クーの頭はパンクしそうだ。
「『衛宮士郎』はあの場所で、たった1人で『ランサー』を待ち続けていた。来るはずのない、叶うはずのない願いだと知った上で、それでも諦められなかった」
それはエミヤの願いとして、あの屋敷で見つけたエミヤの日記にも書かれていた。
「だが、君が『ランサー』を連れて来てくれた。そして再会した2人は、今度は2人であの場所を守っている」
「守っている?囚われているんじゃなくてか」
「ああ、いつか来る解放の時を、待っているんだよ」
「そうか。それならば、俺がしたことにも意味がある」
「正気に戻った『エミヤ』は、ランサーに私を入れた赤い鈴を運ばせた」
「ギルガメッシュが見たっていう青い小鳥は『ランサー』本人か」
「そうだ。そして赤い鈴の中から体に戻った私は、無事に目覚めることが出来た。残ったのは、玉が消えて音を失くした赤い鈴だ」
エミヤの説明で、今まで繋がらなかったことが繋がった。
「分かるか、クー・フーリン。君は『エミヤシロウ』を助けたんだ。私と彼、2人も助けてくれた。それを恩人と言わずしてなんと言う」
そして、エミヤはクーの手を取ると、その手を両手で包み込んだ。
「ありがとう、私の英雄」

16へつづく。
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