こんばんは!!神流木です。
少し前に『これオススメ!!』と言っていた本の二次元創作小説です。
小野不由美先生著『屍鬼』の辰巳×尾崎敏夫で、本作から半年後という設定です。
★小野先生の作品を知らない。
★小野先生の作品のパロディは許せない。
★辰巳×敏夫が嫌い。

これらに当てはまらない方は続きからどうぞ。
久しぶりに書いた小説(リハビリ小説とも言う)なので、拙い所もあります。
ご容赦ください。


汝、永遠の流離子(さすらいびと)となるべしと。(屍鬼 辰敏シリアス)



辰巳が尾崎敏夫と再び出逢ったのは、外場村が無くなって半年近くの年月が流れた後のことだった。
炎に追われ外場村を逃げ出した辰巳は、その後、行く当てもなく彷徨っていた。
『屍鬼』という、道を逸れたモノになった後、共に生きてきた沙子は静信と共に逃がしたけれどもその生死は定かでなく、仮令(たとえ)生きていたとしても、その居場所は辰巳には分からなかった。
風の噂では、あの夏の出来事を静信が本として書き上げたらしい。
しかし、そんな事は辰巳にとってほんの些細なことだった。
導を失った船は、もう航海は出来ない。
そんな気持ちを抱えながら、それでも表面上は穏やかに辰巳は生きていた。
無機質な日々の中、ふらりと立ち寄った山奥の村で、『尾崎敏夫』の名を耳にしたのは、そんなときのことだった。

「尾崎さん、お久し振りですね。僕の事を覚えておいでですか?」
偶然の再会となった敏夫は酷くやつれた様子で、古ぼけた外観の病院の個室にいた。
清潔な真白いシーツの裾から覗く腕は細く、日に焼けていたあの頃とは違い、透き通るような青白い色を晒(さら)している。
その手首には栄養剤だろう点滴の管が取り付けられており、敏夫の体調があまり良くない事が窺(うかが)えた。
敏夫の顔色も腕と大差なく、いや、寧(むし)ろその瞳に嘗(かつ)ての様な強い光が無いからだろうか、死人の様な顔色を呈している。
その瞳がふらりふらりと宙を彷徨い、僅かに辰巳の姿を捉えた。
「・・・兼正の・・・」
「はい。辰巳です。」
掠れた声を出すものの、辰巳の姿を認めた敏夫の目に少しだけ生気が戻った。
「・・・アンタは生きていたのか。」
「残念ながら、そうなりますね。」
「・・・そうか。・・・結局、俺は何も出来なかったのか。」
静かに目を伏せる敏夫の姿に辰巳は意味も分からず戦慄した。これが嘗て屍鬼たちを壊滅に追い込んだ男の姿なのかと。それほどまでに、今の敏夫はあまりに儚すぎた。
「あまりお食べになっていないとお聞きしました。何故です?」
敏夫が入院しているこの病室は精神科の病棟に在った。
あの敏夫がなぜこんな所にいるのかと不思議に思い、辰巳はここに来る途中、病院の関係者に事情を聞いていた。
そして分かった事が、驚くことに、敏夫の病名は『拒食症』だと言うことだった。
この山奥にある清閑な村に来たときには、もうすでに一切の食事を摂(と)ろうとしなくなっていたと言う。そして事ある毎に暴れ、ついにはこの病院へと移されたという話の流れだった。
「・・・理由なんかないさ。」
敏夫は苦しそうに少し口元を引き上げ、そう呟くと、そのまま口を閉ざし、開かれたままになっている窓の方へと顔を向けた。そして、音にならない程の声を小さく口を動かして空気に伝えた。
しかし、その音にならずに夕暮れの空気の中へと霧散していった筈の言葉は、敏夫の口の動きを読み取った辰巳には、しっかりと届いていた。
『もう他の生き物の命を摂る事はしたくないだけだ。』
「僕たちを殺した事を後悔なさっているんですか?」
敏夫は辰巳の言葉に、ひどく緩慢な動きながら首を左右に振る事で否定の意を伝えた。
「・・・人の肉を絶つ感触に苛(さいな)まれましたか?」
「・・・それも、あるな。」
敏夫のどこか引っかかる言い方に、辰巳はさらに質問を畳み掛ける。
「では室井さんの事ですか?貴方が彼を追い込むようなことをしなければ、彼は沙子の所に来なかったとでも?」
「・・・いいや。あれは、・・・アイツの選んだ道だ。・・・俺がどうこうと口出しすることじゃない。・・・それに・・・屍鬼たちの事だってそうだ。あの人たちを殺した事に、・・・後悔は、無い。あれは、・・・村に必要だった事だと・・・信じている。」
非常に敏夫らしい言い分だった。
確かにそうだ。
あの時の敏夫に屍鬼になった人々を殺すことに対する罪悪感や嫌悪感は一切感じられなかった。そこに存在していたのは歴然とした正義を翳(かざ)そうとする明確な意思だった。
だが、それならば、今の敏夫のこの状況はなんだろう。
後悔は無いと言いながら懺悔(ざんげ)をし、信じていると言う自分を信じていないような儚さは一体なんなのだろう。
あの夏の日に、尾崎敏夫という一人の人物が見せた、あの輝きは何処へ行ったのか。
「このままでは貴方は死んでしまいますよ。それとも、・・・このまま死ぬ気なのですか?」
その可能性はあると思った。しかし、敏夫はその問いも否定する。
「俺はそんなに柔じゃないし、死ぬ気もない。それに・・・あの人たちの為にも、俺は死ぬことは出来ない。」
死んでしまっては、何の為にあの村人たちの胸に杭を打ち込んだのか分からないじゃないか。
敏夫はそう言って、山に半分ほど沈んだ夕日を眺めていた。

病室には死んだような静寂が訪れた。
もうすぐ屍鬼の時間が始まる。
「・・・尾崎さん、貴方に一つお聞きしたいことがあります。」
「なんだ・・・?」
「貴方は、まだ『人』ですか?」
そう言って辰巳は敏夫の晒されている首筋に掌を当てた。
触れた瞬間に敏夫が微かに緊張したのが分かったが、その緊張はすぐに解けた。
辰巳が触れたところには、蚊に刺されたような痕が二つ行儀よく並んでいる。
千鶴が敏夫につけた吸血の痕跡だ。
半年という月日が経ったというのに消えないその痕を、辰巳は愛しむ様に優しく撫でる。
「それとも、『人の道を外れたモノ』ですか?」
辰巳のその言葉に、敏夫は苦渋の表情を浮かべて、瞳をきつく閉ざした。
腕をそのままにし、辰巳は敏夫の肌の感触を楽しんでいた。そうするうちに、敏夫の身体が僅かに震えていることに気が付いた。
辰巳は敏夫の首筋に置いた腕とは反対の腕で、敏夫の晒されている腕に触れた。
季節はそろそろ春に移ろうとしているが、夜になればまだそれなりに気温は下がる。
窓も開け放たれているから、そこから入った寒風が敏夫の身体を冷やしていた。
しかし、敏夫の腕の冷たさは、死んだ人間のソレではなく、ちゃんと生きた人間の『温かさ』があった。
「尾崎さん、貴方は僕と同じモノになりましたね。」
それは、疑問ではなく、確定に近い確信だった。
『尾崎敏夫は辰巳と同じ、人狼になっている。』
そうでなければ、敏夫の症状を説明できない。
「尾崎さん。」
辰巳の呼びかけに、敏夫は最後通告を受けたような顔色で、僅かに睫毛を揺らしてか細く答えた。
曰く、『血が欲しくて仕方がない。それをそう言うなら、君と同じバケモノなのだろう。』と。

体中の血液が沸騰するかと思った。
それほどに、敏夫の言葉は辰巳に歓喜を与えた。
『人狼』が出来たことが嬉しいのではない、『尾崎敏夫』が『人狼』となったことが重要なのだ。
そして、敏夫の言葉を辰巳が理解した時、辰巳の心に、『この男を手に入れたい』という抗いたがい欲望が湧き上がってきた。
この男は自分のものだ、と。
自分のものになるために、『人狼』(バケモノ)になったのだと、そう心の底から思った。
手に入れなければならない。
そう、たとえそれが、尾崎敏夫という人間を殺すことになったとしても。
それはある種の脅迫概念となって辰巳を駆り立てた。
「尾崎さん…。」
敏夫の耳元に唇を寄せ、辰巳は熱を込めて名前を呼んだ。
その呼びかけに、今まで瞳を閉じて耐えていた敏夫は、ゆっくりと目蓋を押し上げる。
敏夫の位置からは、辰巳の表情は伺え知れない。
だが、敏夫は、辰巳がとても楽しそうだと、なぜかそう感じた。
「貴方はこれから、選ばなければなりません。」
辰巳の艶を含んだ声が、真白な天井を見つめている敏夫の鼓膜を震わせた。
「此処に残り、孤独の中で、人々に殺されるか。それとも、」
そこで一旦言葉を切り、辰巳は敏夫の耳元から離れ、その顔を敏夫の正面に持っていき、息が掛かるくらいの位置に近づけて、残りの言葉を囁いた。
「僕と共に去り、闇に沈んで生き永らえるか。」
辰巳の囁きに、敏夫は息を詰めて身震いをした。
その顔は、何かを耐えるような表情を浮かべているが、瞳は閉じずに真っ直ぐに辰巳の瞳を見つめている。
その瞳の強さに、辰巳は目を少し細めて口元を引き上げた。
この瞳は、あの村で敏夫が放っていたモノ、そのものだ。
やはりこの男は変わってなどいない。
見た目や考え方は変わったかもしれないが、その根本、この男を作り上げている源とも呼べる魂は一寸たりとも変化してはいなかった。
その証拠に、射抜くような眼光は、今も敏夫の瞳に宿っている。
「尾崎さん、どうなさいますか?全ては貴方次第ですよ。」
決定権はあくまでも敏夫に。
しかし、その決定をさせる為に、辰巳は敏夫の『唯一』を望んでいた。

辰巳の繊細そうな細い指が、敏夫の目元まで掛かっている黒髪を愛おしそうにかきあげる。そして、その指を耳の裏に持っていき、そこを優しく撫でた。
その動きに、敏夫が小さく鼻に抜ける声をあげたのに気を良くし、辰巳は目の前にある敏夫の色素の抜けた唇に触れるだけの口付けをした。
敏夫の唇は、水分が足りていないのだろう、酷くカサついていた。
啄ばむような口付けを数度施し、辰巳はあっさりと身を引く。
そして、内心に渦巻く熱い欲望を抑えながら、敏夫の瞳を見つめた。
ゆっくりとした時間の中で、やがて敏夫の細い腕がベッドの横に立つ辰巳の首へと回された。
そして、弱い力で抱き寄せられる。
辰巳は抵抗せずに、敏夫へと覆い被さった。
敏夫が小さな声で辰巳に囁く。
それは辰巳にしか聞こえないほどの、聲。
答えは『是』だった。



地図からある村が消えて半年後、ある作家が炎に包まれて消えた村の話を書いた丁度同じ頃。
彼らは出会い、そして、共に去った。





―――されば汝は詛はれて此の地を離れ
汝永遠の流離子(さすらいびと)となるべしと。――――




あとがきと言うか言い訳。

だっはっ(汗)!!
やっちまった感がヒシヒシとします。
小野先生のあの大作を、私ごときが真似るなど、無 理 だ っ た !!
補足的に書くと、敏夫は千鶴に吸血された影響で『人狼』になっています。でも、吸血をしたことは無く、なおかつ、事件が切欠で『拒食症』になっており、普通なら(屍鬼でないなら)死んでも可笑しくない状況でした。
そこに辰巳がやってきて、敏夫を攫っていくと。
な ん だ 、 こ の ラ ブ コ メ (汗) 。

本当は三部作で、あと二つありました。
そちらは静信と沙子も出ていたのですが…、気力が無く諦めました(笑)。
もし続きが読みたいよ〜という奇特な方がいらっしゃいましたら、お知らせ下さい。
管理人、死ぬ気で頑張ります。

無断転用はしないで下さい。
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